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ブログ「話すデザイン ⇄ 聞くデザイン」

三木健デザイン事務所 公式ブログ

Yearly Archive

  • 三木組奮闘記『〇〇ツーリズム』前編

    大阪芸術大学デザイン学科グラフィックデザインコース3回生の授業風景を紹介する三木組奮闘記、今回の課題は『〇〇ツーリズム』。芸術作品を巡りながら地域の文化に触れるアート・ツーリズムのように『〇〇』の箇所にあなたの研究テーマを入れてくださいというもの。例えば、文学ツーリズムと題して小説の舞台となった場所を旅する企画を立てるのもいいし、粉もんツーリズムと題してお好み焼き・たこ焼き・うどんなどの食文化を探るのもいい。また、タイポグラフィ・ツーリズムと題して地域色のある文字の開発をするのもいいでしょう。ツーリズムを広義に捉え「人やコトやモノと『関係』をもつ」媒体を想像するのもかまいません。一つのことを徹底して研究すると思いもよらない『関係』が繋がって世界が広がっていく。さあ、三木組「〇〇ツーリズム」のプレゼンテーションが始まりました。まずは、前編のはじまり、はじまり。


    『ロクゼロツーリズム』
    1960年代をテーマにツーリズムを考えてきたKさん。「あの、私、60年代のほのぼのとしたアナログなグラフィックの世界観がとても好きなんです」。「へ~。僕の子ども時代ですね。カラーテレビ (Color television)・クーラー (Cooler)・自動車 (Car) を3Cと呼んで、それらの全てが揃う暮らしをみんなが夢見てきた時代」。「東京オリンピックで盛り上がり、人が初めて月に降り立ったのが1969年です」。「よく知ってるね。1964年の東京オリンピックに向けて名神高速道路や新幹線が開通して、高度経済成長のまっただ中の時代」。「はい。何かその時代のエポックになる出来事を組み込んだおもちゃ箱をつくってみたいんです。題して『ロクゼロツーリズム』へGO!なんです。よって、『60』と『GO』を合わせたシンボルマークをつくろうと思っています」。「おもしろそうですね」。「はい。先生のように60年代を体験した方は、懐かしさを楽しんでいただき、私たちは、パソコンのない時代のほのぼのとした手作りのあたたかみや、そこにある想像力を感じ取ってもらうツーリズムなんです」。「ほぅ~。楽しそう。ちょっと、ワクワクしてきました」。こんな会話から数週間。さぁ、始まりましたKさんのプレゼンテーション。机一杯に60年代のおもちゃが広がってタイムトリップをしたような気分です。おもちゃ箱の中には、プラ模型シール・紙でつくるアポロ・着せ替え人形・オリジナルタイポグラフィのテンプレート定規・すごろく・絵本など。すごいアイテム量です。三木組のみんなが食い入るように観ています。唖然としている人もいます。プレゼンシートも時代が経ってうす焼けたような味のあるデザインに仕上げていて60年代へとどんどん引き込まれていきます。「このおもちゃ箱、欲しい!ベルマーク何枚集めればいい!?」なんてセンスのいい冗談を飛ばす人もいます。目を凝らして見るといろんな所に当時を彷彿させる内容が潜んでいます。モノクロテレビの右角にある【カラー】の表示。「懐かしいな~」。当時の新聞のテレビ欄を見ると、ほとんどが白黒放送でカラー放送の時だけ【カラー】って表示があったのを思い出します。「先生、先生ったら!」と僕の興奮を諫めてくれる学生が出る始末。いや〜、ほんと凄いです。僕は、授業そっちのけで60年代に完全にタイムトリップ。「あぁ、楽しい。このおもちゃ箱、欲しいよ~。僕もベルマーク集める!」。僕の興奮はさておき、みなさ〜ん『ロクゼロツーリズム』いかがですか?現物をお見せできないのがとても残念。チープシックな紙の風合い、デザイン性の強いカタカナのタイポグラフィ。当時の文化をしっかりと研究しています。見事。恐れ入りました。


    『120 minutes tourism』
    時間を切り口にツーリズムを捉えたIさん。「120分の時間でどんなことができるのか?また、日本で世界でどんなことが起きているのか?限られた時間のツーリズムを計画したいと思います」。「ほう、みんなと違う視点ですね。時間限定のツーリズムというわけですか」。「はい。ウルトラマンは3分間の命。120分の出来事をいっぱい探そうと思います」。Iさんのプレゼンテーションが始まりました。「みなさ~ん。120分という時間は長いですか?それとも短いですか?。時間は、みんなに平等に与えられたものです。その時間を切り口に『120 minutes tourism』というポスターをつくりました。今からみなさんを120分という限られた時間の旅に誘いたいと思います」。「へ~ぇ」。「さて、120分間に日本のカップル153組が結婚をします。それに対して54組が離婚するそうです。世界に目を向けると、120分で16,700人の赤ちゃんが誕生します。それに対して12,500人の方が亡くなるそうです」。「ふ~ん」。「人の爪は、120分間に平均0.0083333…mm伸びているそうです。今も僅かですが伸びている事になります。成長しない人間はいないんです。そして、人は120分間にまばたきを約2,160回するらしいのです。しかし、そのほとんどを覚えていません。まばたきは、脳が自発的に行うためその記憶を持たないのです。見方を変えれば、人は120分間に2,160回の記憶を失っていることだと思うのですが…。次に大阪芸術大学の120分の授業料を換算したことがありますか?」。「…?」。「今日の授業もしっかり学ばなきゃね!(笑)」「おい、おい…」。「『120 minutes tourism』お楽しみいただけましたでしょうか?」。限られた時間を設定してリアルな数値でツーリズムを表現しようとしたIさん。
    120分間に起こる現象におもきが置かれ、時間と旅の関係性が少し弱くなったかもしれませんね。例えば、トランジットの時間を利用するような限られた時間の旅の楽しみ方をいろんなコンテンツを準備して提案をすれば、旅と時間といったツーリズムがもっと明快になったかもしれません。それにしても時間へ着目するとは目の付けどころがいいですね。


    『MIZUKI』
    「最もピュアな自分に出会うためのツーリズム」という発想で基礎化粧品の開発をするというKさん。ツーリズムを広義に捉え、内なる自分と向き合うことで美の本来のあり方を考えようとしています。「美しくあるためには、心と体のバランスがすこやかに保たれていなければなりません。人の60%以上が水分でできているように、私たちの心と体は有機的で常にゆらいでいます。水のせせらぎや風のリズムに心が同調し安らぐように、一日のメイクを洗い落し、潤いを保っていく基礎化粧品を提案します」。「ほう、自然現象にみられる『1/ f ゆらぎ』がもたらす心安らぐ状況を内なる自分と出会うためのツーリズムと捉えたんですね」。「はい」。「そこに、基礎化粧品の基本『洗う』と『潤す』と、人間の源『水』とを重ねコンセプトとしたわけですか」。「はい。多くの水分からなる人を『水の器』と捉えてみました」。「なるほど」。「『水の器』を音読みでローマ字で表すと『水器=MIZUKI』になります。これをこのブランド名にと考えています」。「いいですね」。「それから、水と共に生きるという意味を込めて『水生(MIZUKI)』。また、1/ f ゆらぎで心安らぐことで『水喜(MIZUKI)』。続いて、植物の90%以上は水分。自然と一体となる思いで『水木(MIZUKI)』。そして、水が肌に潤い与える『水肌(MIZUKI)』。最後に水に回帰して『水帰(MIZUKI)』。これら全てを通してブランドを組み立てていきます」。「ほう、考えましたね」。「全てのデザインから過剰なものを取り除くようにしていきたいと思います」。「いいですね」。意味とデザインの関係にこだわり続けたKさん。コンセプトが見えてくるまでの苦悩が洗い流されたようなピュアなプレゼンテーションでした。しかし、プレゼン終了後「みんなの提案を観ていたら、まだまだやらねばならないことに気づかされました」。内なる自分と向き合いはじめたKさん。その先の自分に向かって歩み始めたようです。


    『天王寺裏ツアー』
    「大阪の人ならみんなが知っている天王寺という街にも知らない所がいっぱいあるように思います」。「そうですね。編集視点を変えてみると新しい価値が浮かび上がるように思いますね」。「自分だけのとっておきの『ちょっといいな』を探す旅。『天王寺裏ツアー』探検セットを提案したいと思うのですが…」。「いいんじゃないですか。いわゆる市販の観光案内とは違う、気づきに出会えるツーリズムですね」。「ただ、こんな身近な所で知らない所がいっぱい見つけれるか少し心配ではあるのですが…」。「あれっ!急に弱気になってますね。いつもの同じ道でもテーマを決めて歩いてみると、違う風景が立ち上がってきますよ。街の色を探す。人情を知らせるなど、独自の視点で気づきを届ければいいんじゃないですか。フィールドカードを持って、まずは街に出かけてみましょう」。「はい」。こんなやり取りから数週間後、Mさんのプレゼンテーションが始まりました。「みなさ〜ん、こんにちは。『天王寺裏ツアー』へようこそ。ここに5つのコースを準備してきました。それぞれ、メインの通りから一本道を入るだけで個性のある町並みが現れてきます。例えば、こんなお店があります。『ときどき賑わっているお店がある。特に立ち飲み屋はおじさんたちが体を斜めにして整列していて、ちょっとした所に譲り合いの精神を感じる』」。彼女の写真に彼女の言葉が添えられたカードがそれぞれのコースの楽しみ方を紹介しています。楽しそうな裏ツアーの始まりです。「続いて、『あんなところに大阪城?!いえいえ、違います。大きな声じゃ言えないけれどちょっと変わったラブホテル』」。「キャー」。「さらに、『使われていない火災報知機は、この地域の平和のあかし。今日もこの柱で安全を祈ってね』」。「うまい」。「まだまだあります。『電気のつかない公衆トイレ。中が暗くて見えないため手探り状態で用を足す必要がある。上級者専用トイレ』」。とてもユニークな『天王寺裏ツアー』です。地図も添えられていてリサーチの跡が垣間みられます。「あっ!かわいい〜。『裏』の文字が裏返しになってる」とどこからか声が聞こえてきます。「はい。天王寺の裏の裏の紹介でした」。チャン、チャン!


    『トイレツーリズム』
    「あの、トイレを研究対象にツーリズムを考えたいのですが…」。「えっ!どんなツーリズムですか?」。「ツーリズムを直訳すると観光事業ですが、ここでのコンセプトは、『新たな発見や再発見』を意味すると思うんです」。「はい」。「そこで、毎日使用するトイレについて考えてみようと思うのです。大切な場所なのに日常に溶け込み過ぎていてあまり興味を持たれていないように感じるんです」。「トイレと観光は、どう繋げますか?」。「ちょっとかけ離れているように思われるかもしれませんが、観光地にもトイレがあります」。「なるほど。トイレ面白そうですね」。Aさんのプレゼンテーションが始まりました。たくさんのトイレットペーパーを抱えています。「『トイレツーリズム』と題して、トイレを研究をする中で、一人で過ごすトイレの時間だからこそコミュニケーションが大切ではないかと考えました。そこで、トイレットペーパーをメディアに『人とトイレの繋がりを再発見する』をテーマに友人と対談をして、それを記事にしました。内容は、『国を表すトイレ』、『わたしだけのトイレ』、『もてなしのトイレ』といった3つの話です」。「話の途中で紙が切れているケースがあると思いますが?」。「大丈夫です。内容はエンドレスで繋がっていますから」。「なるほど」。「次にイラストで再発見するトイレについてや、トイレそのものの歴史や文化についても漫画を添えて楽しく表現しました」。「ふむふむ」。「最後にトイレのテーマソングを作詞作曲しました。用を足す時の音を消すための音楽としても使用します。これで水の使用量を半減させることができます」。トイレをコミュニケーションと捉えた視点、ちょっとユニークですね。観光とトイレの関係性をもっと深く掘り下げてみると、『うんちくのあるトイレツーリズム』になったように思いますがいかがでしょうか。


    『女子力ツーリズム』
    「あの、女子力について100人にアンケートを実施したいと思います」。「えっ、ツーリズムをどう解釈するの?」「自分も知らなかった自分に出会う旅と名づけて『自分を好きになる力』を発見する旅です」。「ずいぶん広義な解釈ですね」。「はい。『好きになる力』の漢字の部分を良く見てください」。「はい、見てますけど…」。「好きという漢字は『女』と『子』でできているでしょ。それに『力』をくわえて『女子力』です」。「ほう〜。一本取られました!」。そんなわけでKさんのツーリズムは『女子力ツーリズム』。いわば自分磨きのために同年代の女子大生がどんなことを考えているのか、徹底したリサーチを展開してきました。ダイアグラムがリップになっていたり、変身願望を一目でシュミレーションできる化粧グッズが展開されていたり、女子のタイプを5つの系統で表したりと、まるで女性雑誌が『女子力ツーリズム』と銘打って特集を組んだような展開です。それにしても女子力って何なんでしょうね。僕には、内から滲み出る美意識とでもいいましょうか、その人の暮らし方や生き方の中に存在する哲学のように思えるのですが…。哲学(Philosophy)の語源は、古代ギリシャ語の「愛(Philos)」と 「知(Sophia)」が結び合わさって生まれた言葉。「知を愛すること」。そこに男女関係なく人間力が備わっていくように思えるのですが…。

    いずれにせよ、多彩な展開となった三木組奮闘記『〇〇ツーリズム』の前編。三木組のみんなずいぶん苦悩した様子です。『問いを自ら見つけることが課題』の三木組。言い換えれば『問いを学ぶ』ワークショップといってもいいかもしれませんね。そうそう、古代ギリシャでは、哲学(Philosophy)のことを学問全般を示す言葉として使っていたようです。つまり『問いを学ぶ=学問=哲学』となる訳です。よって三木組の授業は『デザイン・フィロソフィ』をいかに可視化するかについて学んでいこうとしているんです。さあ、次回、後編も乞うご期待ということで前編終了です。

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  • 三木組奮闘記『旅』後編

    三木組奮闘記『旅』の後編、学生達はどんな『旅』を提案してくれるのだろうか?なんだか楽しそうなフィギュアを持って出迎えてくれる『三木組ツアーズ』の添乗員がいます。『旅』は道連れ。どうぞ、みなさんもご一緒しませんか?


    『DEEP ABENO』
    大阪市阿倍野区に暮らすT君。前回の課題でアニメーションに挑戦して、数千枚の絵を描き始めましたが提出の期限に間に合わず沈没。途中のプロセスを見ていて、デッサンの確かさ、シナリオのユニークさ、独自性など、表現力のある人です。今回は、何としてでもゴールを目指してほしいと思います。「テーマ『旅』、場所はどこでもいいんですか?」。「いいですよ」。「ボク、阿倍野に住んでるんですけど…。阿倍野って、誰もが知ってる場所なのであまり面白くないですよね?」。「阿倍野、いいんじゃない。みんなが知っいてれば、なおいいんじゃない。知ってるはずの阿倍野を深く掘り下げれば、誰も知らなかった阿倍野が浮き彫りになるかもよ」。「深い阿倍野ですか?」。「そう、『ディープ・アベノ』」。こんな会話から始まった彼とのやり取り。T君が作ってきたのが自分のフィギュア。彼そっくりの『Mr.DEEP ABENO』が阿倍野の夜を放浪する。本人と『DEEP ABENO』が共演するシーンなどもあって、プレゼンが始まるやいなや、三木組みんながキャッキャ、キャッキャと大興奮。ゆるキャラブームの中で、阿倍野育ちのリアルな『DEEP ABENO』が、実際に阿倍野区のキャラクターとして採用されたりしたら面白いんだけどな~。再開発の進む阿倍野を『DEEP ABENO』がラップ・DJ・ブレイクダンスといったようなヒップホップなクリエイティブを引っさげて文化を語る。時々、T君と共演してサプライズを巻き起こすなんていいんじゃないだろうか。「ところで、T君!僕のフィギュアもつくってくれない?『DEEP APPLE(ディープ・アップル)』。僕のやってるワークショップ『りんご』を掘り下げるのに一役かってもらいたいんだけど!」。


    『談山神社』
    「奈良県桜井市の多武峰(とうのみね)にある『談山神社(たんざんじんじゃ)』を舞台に『旅』を提案したいんですが…。『談山神社』ってご存知ですか?」。「いいえ、知りません」。「先日、出かけたのですが、すごい山奥にあって、『大化の改新』の前、藤原鎌足と中大兄皇子がこの地で談合を開いたことが名前の由来らしいのです」。「ほう」。「この山、『談い山(かたらいやま)』とも呼ばれていたそうです。よって、ここから日本の歴史が動いていったんです」。「『談い山』、面白い名前ですね」。「ただ、ここから『談山神社』と『旅』がうまくつながらなくって…」。「では、『談山神社』を『山と話す』と捉えてみると、コンセプトが広がっていくかもしれませんよ」。「『山と話す』?」。「はい。『山と話す旅』をナチュラル・ツーリズムと捉えてみるといいかもしれません。自然に触れて、自然体になって、心を癒す」。「あっ!これって『談山神社』と『旅』がつながる!」。「そうですね。もう一つヒントを。奈良で日本の歴史が語られたってことは、『やまと話す』とも言えるんじゃない」。「えっ!」。「奈良は大和。『大和話す』でしょ」。「わっ!すごい。『山と話す』=『大和話す』。どんどん、つながっていく。私『談山神社』でやります」。「おい、おい、『談山神社』で提案したいと、君が伝えてきたんじゃない?」。「そうなんですけど…。ちょっと、どうしようかなと思いながら…。『先生と話す』だったんです(笑)」。そんな会話の後、I さんが提案してきたのが『談山神社』のブランディング。おみくじとお守りで『人と話す』らしい。三木組の『話すデザイン』、こんな感じで進んでいきます。


    『HAN RIVER』
    韓国の留学生Kさんの『旅』は、ソウルにある漢江(ハンガン)という川。韓国の北部を流れる全長514kmもある長い川。その漢江にはたくさんの橋がかかっていて、ソウル市内に18の橋と3つの鉄橋があるそうです。Kさんのプランは、その橋をクローズアップさせながら漢江の魅力を説こうというもの。昼と夜で表情の変わる橋をグラフィカルに表現してきた彼女。「冬休みにソウルにもどり、漢江に行ってきました。夜の橋がとりわけ綺麗でライトアップされた橋が川面に映り上下左右にリズミカルに繋がっていくんです」。Kさんの『旅』は、大地と大地を繋ぎ、モノやコトが行き交い、人と人を結ぶ。「繋ぐ・行き交う・結ぶ」がコンセプト。彼女の話を聞きながら、僕は隣接する国との関係性について想いを寄せていた。信頼や安心をベースとした持続可能な『絆』づくり。これを『架け橋』と呼ぶのだろうと…。



    『THE TRAVEL OF VISION』
    プランニングに行き詰まり、最後の最後で全く違うプランに切り替えたH君の『旅』は『視覚の旅』。さあ、彼のプレゼンテーションが始まりました。「今日は、みなさんを視覚の『旅』に誘いたいと思います。この『旅』は、いわゆる足を運ぶ『旅』ではなく、みなさんの眼を運んでいただく『旅』です。一言でいうならば、眼を通して脳が錯覚をする体験に触れていただく『錯覚を体験する旅』です」。小箱の中からいろんなツールが取り出されました。『THE TRAVEL OF VISION』と記された正方形の書籍、この中で『錯覚を体験する旅』に出会うのだそうです。錯視を生み出す基本造形を旅で訪れる建物やシーンに見立てて展開しています。そういった錯視の書籍は、過去にもたくさんありますが『確かめのものさし』と名づけたツールで錯視の検証を促し、見るから触れるへという一連の動作を導く『行為のデザイン』へと近づけようとしているところが評価できると思います。三木組の学生達が「どれ、どれ」とツールを使って確かめています。「本当だ!」なんて声も聞こえてきます。「やり直して良かった」という安堵の表情がH君に走ります。さて、こつこつと積み上げてきたアイデアが立ち行かなくなり、このまま進めても解決しそうにないと気づいた時の英断。元に戻ってやり直す勇気。ここが、最も大切。長いものに巻かれてはなりません。『人生の旅』の教訓を一つ「止まらない列車に乗ってはならない」。

    みなさんいかがでしたか、三木組奮闘記『旅』。学生達のデザインへの『旅』は、まだ始まったばかり。知らなかった、気づかなかった、分からなかったを体験する『旅』の魅力は、未知との遭遇。行ってみないと分からない。体験しないとわからない。この世は知らないことで一杯。引っ込み思案のあなた、知らないことを探る『旅』に出かけませんか。

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  • 三木組奮闘記『旅』前編

    大阪芸術大学デザイン学科、三木組の授業内容をドキュメンタリーで紹介する『三木組奮闘記』。三回生後期、二つ目のテーマは『旅』。学生達の誘う『旅』の提案。さて、どこへ連れて行ってくれるのでしょうか。「おっ、始まりました『三木組ツアーズ』の添乗員達のプレゼンテーション」。みなさんも彼らの提案する『旅』にご一緒しませんか。


    『ちいさな摂津』
    大阪にある『摂津市』の魅力を知らせる書籍をデザインしてきたSさん。ローカルの『摂津市』を知らせるために「宇宙から見た『摂津市』とは?」というコンセプトで語り始めました。宇宙学校に通う3人の学生が地球見学に来るという設定で日本を選択。住所をコンピュータに入力したものの誤作動があり『摂津市』に着陸という物語です。「宇宙のこのへんの、地球のこのへんの、日本のこのへんの、大阪のこのへんの、摂津市という場所に…」から始まる巻頭。宇宙というマクロから眺めた『摂津市』をミクロと捉え「このへんの」という表現で、ローカルの位置関係を知らせるセンスの良さ。彼女のプレゼンを聞きながら、その昔、イームズの『Powers of Ten』を見た時の感覚が僕の脳裏に蘇ってきました。そして、『摂津市』の詳細を身近なモノに比喩しながら物語が展開していきます。例えば、『摂津市』の面積を知らせるのも「たこ焼き100億個ぐらいを並べた大きさで、大阪城、9つ分」といった具合。また、市内の35の町名も語呂合わせで楽しく紹介。個性のあるイラストレーションを使った「わかりやすさの設計」が随所になされています。Sさんのプレゼンに三木組のみんなが魅了されていきます。囲碁将棋や経営の世界でよく使われる言葉、「着眼大局、着手小局」。まずは現状を把握し、仮説を立ててわかりやすく示す(着眼大局)。そのうえで、細部を丁寧に語っていく(着手小局)。きっと、そんな視点が根っから備わっているんでしょうね。見立て上手は、可視化上手。『ちいさな摂津』のタイトルが全てを言い表しています。


    『空の停留所』
    Sさんのプレゼンテーションが始まりました。静かな口調でコンセプトが語られていきます。「あなたは最近どんな空を見ましたか?空はあなたを元気にします。広い空の下で、ふーっと深呼吸してください。思いっきり吐いて空を全部吸ってください。空っぽの空。力一杯のあなた。たまには深呼吸して、今日は休息、明日からまた再出発。大切なのは、目的地ではなく、旅そのもの。あなたの空の旅を完成させてください」。「さあ、空を見に行こうよ」と、詩の朗読のようです。彼女曰く「『空』は『そら』・『から』・『くう』と読むでしょ。『から』っぽの、何もないけど全てが存在している『くう』の『そら』。その『空』が私の『旅』の対象。つまり、自分を見つめ、何かに気づく、これが『旅』なんです」。「ほう~」。「そんなわけで『空』のキットをデザインしました。中には『空日記』と題したいろんな空の表情を閉じ込めた日記帳や、『今日の空色模様』と題したたくさんの空色色紙や、『空気ハンカチ』と題したふわふわハンカチや、『空っぽ音楽』と題されたCDなどが納められています」。自分自身と対話する『旅』。『空の停留所』は『気づき停留所』でもあるようです。


    『ひなたほっこり。』
    「ひきこもりがちなあなたへ。ひなたぼっこのように心をほっこりさせませんか。ひなたぼっこでほっこり」と書かれたコンセプトシート。どうやら、Aさんの『旅』は、リラクゼーションへの誘いのよう。彼女によると、芝生の上に寝っころがって昼寝をすると『ほっこり』するらしいのです。「そこで『ほっこりする寝』の旅にみなさんを誘いたいと考えました」。「自然の中で昼寝をすることを『旅』と捉えるの?」。「はい」。「ということは、『大地の敷き布団』と『空の掛け布団』の間で昼寝をするわけだ」と僕がつぶやくと、次の打ち合わせを待つ学生が「素敵!」と。「そうだ!私『ひなたほっこり』のグッズいっぱい作ります。自然の感触を届けてキャンペーンにします」。そんなわけで芝の感触のグッズがいっぱい準備されることに…。『感触のプロダクト』ユニークなアプローチです。



    『香川県観音寺市大野原町』
    四国の香川県出身のI 君が選んだ旅先は、実家の『観音寺市大野原町』。I 君のプレゼンテーションが始まりました。「ここは何もない町。ビルもない。デパートもない。空と田んぼだけしかない。なんだか少しさびしくなる。だけど…。ここには、すべての源がある。家族がいる。人がいる。自分がある。ぜんぶある町。あの町に戻ろう。心は裸のままで」と、自分の育った町を思う気持ちを切々と語ってくれます。誰にもある居心地のいい場所。『旅』を起点にふる里を見つめる。町と記憶。I 君の遺伝子に刷り込まれた『香川県観音寺市大野原町』の時間と空間と人間。それらをつなぐ「間(ま)」。『旅』は「間」を行き交うことで刷り込まれていく体験の記憶なのだと、彼の瞳が語っているように思いました。

    『三木組奮闘記・旅』の前編いかがでしたか?三木組のみんなそれぞれに『旅』をしてるでしょ。コンセプトを組み立てるのに迷子になったり、道草をし過ぎて元に戻れなくなったりと、彼らの中では色々あった様子ですが、そのプロセスの中で何かを発見する。これがまさに『旅』なんですよね。『三木組奮闘記・旅』の後編もご期待くださいね。

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  • 三木組奮闘記『世界一の研究者になるために』

    大阪芸術大学デザイン学科、三木組の授業内容をドキュメンタリーで紹介する『三木組奮闘記』。三回生を対象に前期と後期で学生達がゴロッと入れ替わる選択科目。15週のプログラムで課題が二つ。後期、一つ目の課題は副題として「世界一の研究者になるために」が添えられているだけで研究対象そのものを自ら設定せねばならず学生達は戸惑い気味。「難しすぎる!何を研究すればいいかわからへん!」といった声が教室内に広がります。
    「あのね、『学問』という漢字をよく見てください。『問いを学ぶ』って書いているでしょ。デザインを通して解決方法を見つけるためには、自らがテーマを探さないと…。『答え』を探すには、まず『問い』を見つけるってこと!」。「……」。「では、研究テーマや考え方の視点を見つけ出すヒントとして僕が今年の4月から展開している一回生への授業『りんご』世界一の研究者になるために を紹介します。この授業は『気づきに気づく』がコンセプトになっていて、考え方の考え方や作り方の作り方、そして、学び方の学び方や伝え方の伝え方についてのワークショップです。『理解→観察→想像→分解→編集→可視化』といったプロセスを通して、何らかの『気づき』を発見する。その発見が発想をジャンプさせてくれるのです。徹底して調べて、一つのモノに秀でる事で全体を俯瞰して見つめる力が養われます。そして、一つのモノを多様な事象と組み合わせる事で既成概念の殻を壊すことができるのです。卒業制作の前哨戦だと思って、自分も知らなかった自分に出会いにいきましょう」。それでは三木組奮闘記、はじまりはじまり。

    『たまご』

    「知らない人が誰ひとりといない『たまご』について調べてきました。みなさん、私たち日本人が世界で一番『たまご』を消費しているのをご存知でしょうか?しかし、それは『たまご』を食べているだけではありません。いろんな所で活用されている『たまご』の秘密。知っているつもりの『たまご』について、なんて知らないんだろうと気づく『たまご』の情報。『世界一の研究者になるために』私の研究課題は『たまご』です」。
    目のつけ所がいい。世界中のみんなが知っている『たまご』について徹底研究をしてきたSさん。ユーモラスでセンスのいいイラストレーションが三木組のみんなを引きつけます。手の平に乗る小さなサイズの本を学生達は食いいるように見つめています。「大きな本に仕上げたら、もっと迫力が出てみんなが見やすかったかもしれませんね」。「いいえ、小さなサイズにすることで『たまご』を想起してもらいたかったのです」。「なるほど」。覗き込もうとする三木組のみんなの姿に思わず「大きな本に仕上げたら…」とアドバイスを誤った。適正なサイズだ。的を得ている。授業終了後「この本をもう一冊つくってくれない?参考資料にしたいのですが…」。「はい」。後日、届けてくれた本の製本がプレゼン時よりも綺麗に仕上がっていた。
    丁寧である。丹精がこめられている。手間隙がかけられている。これらの先にあるのは、品質へのプライドだと思う。『たまご』の本のお礼に「そうだ!プリンをごちそうしよう!」。

    『梨』
    日本で『梨』が食べられ始めたのが弥生時代。日本最古の栽培果実『梨』を研究課題としたSさん。品種改良により進化を続ける『日本梨』の系統図が添えられた『梨の教本』を経典のような折り本に仕上げてきました。「なぜ、『梨の教本』をデザインしようと思ったのですか?」。
    「秋の味覚で知られている『日本梨』は、我が国原産の日本固有の果実です。日本で栽培される果物の中で最も歴史が古く一千年以上。これを改良して完全な品種群にしたのは、我が国のみで現在まで盛んに品種改良が行われています。「香り、食感、味」がそれぞれで異なり栄養も豊富、漢方では薬効のある果物とされるほど身体にとても優しいのです。季節の贈り物として果物を贈る習慣は、幸せを願う素直な気持ち。喜びや感謝を伝える行為だと思います。『梨の教本』を通して大切な人に『梨』を選ぶ。旬の味わいと一緒に『梨』の持つみずみずしさと優しさを届けるって素敵だと思いませんか」。「なるほど。『梨』という果物の先に相手を気づかう心があるわけか」。丁寧・丹精・手間隙の先には品質があると『たまご』の仕事で悟ったが、その先には愛があるということなのね。

    『ごぼう』
    インターネットの普及で、『 Wikipedia ウィキペディア(米国のNPOであるウィキメディア財団が運営する誰でもが編集できるフリーな百科事典プロジェクト)』を利用する人たちが多くいます。学生達もご多分にもれず『 Wikipedia 』のお世話になっている様子。研究課題の設定で同じテーマを研究する人がいて、僕との個別の打ち合わせで全く同じ話をするのです。
    「あの、さっきその話ききましたけど…」といった内容。授業中に口が酸っぱくなるぐらい「源を見つめて、自分の目で見て、自分の手で触れて、身体を通じて情報を感知すること。机の前で人の情報を鵜呑みにしないこと」と伝えるにもかかわらず、多くの学生達は「調べてきました」と安易に打ち合わせにやってくる。そんな中、H君は違っていた。「『ごぼう』を研究課題にしようと思い、地元の『三重県菰野町(こものちょう)』の農協に紹介してもらい『ごぼう』を実際に作っている農家を尋ねてきました」。取材してきた写真を見せながら「『地力(ちりょく)で育てる』という概念を農家の方に教えてもらいました。これをコンセプトに広告へと展開しようと思うのですが…」。「いいですね」。「みなさ~ん。集まってください」と三木組の学生達を集め、H君に取材のプロセスからコンセプトに至るまでを紹介してもらいます。三木組のみんな「……」。沈黙の中に流れるみんなの真剣なまなざし。ひとりの学生の行動が、みんなに気づきを与えてくれます。『地力』ならぬ『組力』がここに育ちはじめていくのです。

    『エリンギ』
    まずは、映像をご覧下さい。『エリンギおねえさん』になって登場するKさん、大好きな『エリンギ』を研究課題としてきました。わかりやすさの設計をテーマにまるで幼児番組のファシリテーターのようなプレゼンテーションです。衣装もすべて手作り。肩に生えている『エリンギ』が可愛いと評判です。美味しいを楽しいに変えるファシリテーションに次の発表を控える三木組のみんなの緊張もほぐされていきます。

    『トマト』
    「私、トマトきらいなんです」。という巻頭文を開きながら、「トマト嫌いの私がトマトを克服するために研究課題を『トマト』にしました」と話すKさん。表紙は、全体をトマトに見立てた大胆な表現。ページをめくるごとに展開されるトマト情報は、ダイアグラム化されていて、きっちりと整理されています。プレゼンが進むに際して「彼女は、この課題で嫌いなトマトを克服できるのだろうか?」と僕の頭を過ります。巻末のページに「『I dislike a tomato. = I’d like tomatos…ai(私はトマトが嫌いだ。= 私はトマトが好きだろう。余り…愛』。嫌いの奥深くには愛が残る」と記されています。三木組のみんな、一瞬の沈黙。少し間が空いて「ヘェ~」と感心。思わず「座布団一枚!」と言いたくなるような、彼女の知的な発想にユーモアのセンスを発見。「ところで、トマトは食べれるようになったの?」。「え〜っと、ちょっぴり」。それにしても「嫌いの奥深くには愛が残る」とは…。深いな〜。

    『かぼちゃ』
    『かぼちゃ』について研究を始めたIさん。「『かぼちゃ』の中に『おもちゃかぼちゃ(ペポカボチャ)』と呼ばれる観賞用の『かぼちゃ』があります。すごく可愛くて種類も豊富で比較的簡単に栽培できるらしいのです」。「ええ」。「その『おもちゃかぼちゃ』を題材に幼稚園のブランディングへと発展させようかと思うのですが…」。「えっ!幼稚園ですか?」。「はい。幼稚園での『遊び』というのは、『勉強と遊び』を区分するような『遊び』という概念とは違って、幼児自らが興味をもって関わる全てを『遊び』という概念で呼ぶそうです」。「ほう」。「そこで、幼稚園における『遊び』の概念を『おもちゃかぼちゃ』の栽培を通して自立心や知的好奇心の芽生えに役立てたり、園児とのコミュニケーションツールとして幼稚園手帳を開発したりして、そこに『おもちゃかぼちゃ』のキャラクターを組み込もうかと思っています」。「面白そうですね」。授業では「ブランディングを人に比喩すると『絆づくり』。『心づくり』が理念を広める行為。『顔づくり』がデザインによるアイデンティティ。『体づくり』が活動」と、繰り返し説明してきました。多くの学生達が『顔づくり』のヴィジュアルアイデンティティで手を止めてしまうところを、なんとか活動の仕組みへと展開しようとしています。それにしても『かぼちゃ』から幼稚園のブランディングへとは…。発想のジャンプに驚かされます。

    『金平糖』
    室町末期にポルトガル人によりもたらされたとされる『金平糖』を研究課題にしたAさん。「『金平糖』の理想のカタチは24の角」と主張する。「へ〜。『金平糖』って24も突起があるの?」。「数はさまざまで19から27ぐらいできるらしいのですが、24の角が最も綺麗な『金平糖』なんです」。「ほ〜う」。「『金平糖』の作り方をご存知ですか?」。「さすがに、知らないな」。「ザラメを大きなフライパンのような釜に入れて上質なグラニュー糖から作った『糖蜜』を振りかけ釜を回転させるんです。常時、下から火であぶっていて『糖蜜』を振りかけては混ぜる。この行程が釜の中で均質な『金平糖』をつくるのにすごく重要。それを毎日繰り返し14日間。すご〜く手間隙がかかるんです」。「へ〜。ところで金平糖博士どうして『金平糖』の研究をしようと思ったの?」。「手間隙がかけられて、甘くてなんだか懐かしい。小さいけど、大きな愛に包まれてるでしょ」。「愛か、愛だよね!愛」。

    『じゃがいも』
    Aさんのすごい妄想。「私、『アイドル』大好きなんです」。「はぁ〜?」。「それから『じゃがいも』も大好きなんです」。「えぇ?」。「そこでなんですが、『じゃがいも』は、大地に埋もれていて、農家の人たちによって掘り出され、市場に出回りますよね。そして、いろんな食材に使用され、時に食以外の分野へと姿を変えることもあります」。「ええ」。「この流れが芸能プロダクションの活動と繋がっているように思えるのです。『じゃがいも』のような優れた才能(タレント)を掘り起こし(スカウト)、市場に出す(デビュー)」。「はぁ〜」。「それで、Potato Potential Production『PPP』という芸能プロダクションを設立して、カラフルポテトというアイドル3人組をデビューさせようと思います」。「カラフルポテト?」。「はい。『じゃがいも』の品種改良で生まれたとっても美味しいカラフルな『じゃがいも』のことを『カラフルポテト』と呼ぶんです。黄色が『インカのひとみ』、紫色が『シャドークイーン』、そしてピンク色が『ノーザンルビー』という名前で、それぞれが実に個性的な味なんです」。「へぇ〜」。「アイドル名をその『カラフルポテト』として、3人の名前も『インカのひとみ』など『じゃがいも』の名前と合わせ、3人のコスチュームカラーも黄・紫・ピンクにするの。それからそれから、お料理番組からデビューさせて歌いながらお料理させるの」。いやはや、なんという発想のジャンプ力なんだろう。『アイドル』と『じゃがいも』を組み合わせて芸能プロダクションまで設立するとは…。好きなんだろうな『アイドル』と『じゃがいも』。

    『キャベツ』
    「丸くて、固くて、葉が『ぎゅうぎゅう』に巻かれている黄緑色の淡色野菜、それが『キャベツ』です。葉物野菜の代表格で様々な料理に姿を変える『キャベツ』は、私たちの食卓に欠かすことができません。その『キャベツ』について私たちはどれほど知っているのでしょうか。みなさんは『キャベツ』が『緑の栄養タンク』と呼ばれるぐらい栄養価が高いのをご存知でしょうか。また、『キャベツ』に花が咲くのをご存知ですか?」と語り始めたKさん。『キャベツの国から』と題した絵手紙でコミュニケーションを計ろうとしています。パラパラ漫画に描かれたのは『ぎゅうぎゅう』に巻かれた葉が数枚ずつ捲られていく『キャベツ』。裏面の黄緑色と変化する『キャベツ』以外は、文字などの情報はなし。パラパラとページを捲る行為と『キャベツ』の葉を捲る行為が繋がって、そこに『キャベツ』が浮上する。『キャベツ』の切手、『キャベツ』の絵はがき。情報を行為に置き換える『キャベツ』三昧のコミュニケーション。

    『胡麻』
    「食文化を通して日本の美意識を再確認する」という大きな理念を掲げて『胡麻』を研究するSさん。「日本から繊細な美意識が薄れてきているように思えるのです。日本の凛とした美しさ。飾らないそのものの美しさ。美味しさの原点に潜む美について考えていたら、『胡麻』が古くから身体に良い食べ物として知られ、一部では不老長寿の薬だといわれていることを知りました。美味しいという漢字の中に『美』が潜んでいるように、身体と心のすべてに健康であることが食文化の原点ではないかと思えてきたのです」。「ほう」。「そこで、『開け胡麻』と銘打って『胡麻』を紐解いていこうと思いました」。「このデザインの中で使われている書体は?」。「金文(きんぶん)です」。「三木組のみんなに金文を簡単に説明してください」。「青銅器の表面に刻まれた文字のことです。中国の殷・周時代のものが有名で、甲骨文字の後の漢字です」。「漢字のルーツを尋ねると漢字が表意文字で、もともと絵であったことが感じられますね」。「はい。そこでビジュアルの中にプリミティブな絵を加えました」。
    「源を訪ねる」。これが三木組の基本です。

    『玉ねぎ』
    「ユリ科ネギ属の野菜(玉ねぎ、ねぎ、にんにく、にら)の『玉ねぎ』を中心に研究をしてきたTさん。『ユリ科教育プロジェクト』と題してユリ科の食品情報に興味を持ってもらう仕組みを提案してきました。国語、算数、理科、社会といった小学生に興味を抱いてもらえるようなクイズ形式のコミュニケーションです。例えば、算数では、『葱算』という独自の数式で『玉ねぎ』の効能を伝えようとしています。ウィットにとんだ遊び心のあるプログラムです。楽しいステーショナリーも準備されています。プレゼンの途中、そのグッズの中にある『葱鉛筆』の紹介に三木組の仲間から「かわいい〜」と声が上がります。「ユーモアは魔法の薬」と言ったフランスのポスター作家レイモン・サヴィニャックの言葉が思い出されます。

    『米』
    『米』について熱心に研究していたNさん。プレゼン当日、たくさんの『ふりかけ』を持ってやってきました。「ご飯を食べる時に『ふりかけ』をかけると美味しいでしょ。カレー味は『サリー』、キムチ味は『チマチョゴリ』、中華味は『チャイナドレス』の民族衣装のデザイン。小袋の中身も透けて味の違いが外からでもわかるの。市販の『ふりかけ』の袋って中身が見えないものばかりでしょ。パッケージはクローゼットケースです」。「かわいい〜」と三木組の女性陣。「おいおい『米』はどこいったの?これじゃ『ふりかけ』のパッケージじゃない」。「あっ!」。「楽しいアイデアですけど、先程の中身の透ける小袋の件、市販の小袋はアルミ蒸着の素材を使用していて、湿気面やコスト面など複数の問題から採用されていると思うのです。満足度というのは、機能的価値と情緒的価値の両方が重なった所にあって、その重なりに人は対価を払うのね。透ける小袋のアイデアは、情緒的価値の感性を優先したデザインです。そこに機能的価値を支える技術がついてくることが理想なんですが、開発に手間取ることが多いです。そこで、今ある技術をリ・デザインしたり、編集したりして、新しい価値を探っていくケースをよくみます。その辺りもう少し突っ込んで考えてみましょう」。「はい」。
    学生達とのリアルなやり取りをドキュメントする三木組奮闘記。彼女の熱心でひたむきな研究姿勢、次はどう飛躍してくるのだろう。

    『うどん』
    香川県出身のI君の研究は『うどん』。I君曰く、空海の生まれ故郷である香川県には『うどん』と空海の逸話が諸説あって、その一つに「讃岐の『うどん』は、平安時代に遣唐使船に乗って大陸に渡った空海が持ち帰った」という説があるらしい。その説を可視化させながら『うどん』について奥深く語ろうとしています。蛇腹形式の経典のような折り本が二冊。一冊は『空海とうどん』。もう一冊が『五感とうどん』。プレゼンのパフォーマンスのためにか、『釜揚げうどん』には、大きすぎる桶。その桶を持ってのプレゼンですが、登場時に折り本二冊を運んで来ただけ。なが〜く伸びる折り本の方は、空海が使った『うどん経典』と見立てれば納得のいく所。過度なプレゼンは、時にマイナスな時もあります。過不足のないデザイン。情報のプライオリティが明解なデザイン。結論から話す。この辺りが届くプレゼンテーションの極意かも…。

    『手』
    「食材を研究しなければならないのでしょうか?」。「いいえ」。「副題に『世界一の研究者になるために』とあるだけで研究対象は自由です」。「じゃ、『手』を研究したいと思います。手はある種、人生を語っているようにも思えます」。「ええ」。「画家の手、大工の手、シェフの手など、『手』は職種により表情を変えます。また『手話』にみられるように『手』は言葉も語ります」。「そうですね。『語り手』ですね」。「あっ!その『語り手』ビビッときました!」。「よければどうぞお使いください」。「いいですか?」。「もちろんです。思考が固まらない時は、名前をつけてみる。固定概念から離れられない時は、名前を消してみる。『名前は理念の声』。授業中にいつも言ってるじゃない。がんばっ手!」。「フッフッフ…(笑)駄洒落ですか」。「言葉遊びだよ。いろんな寄り道や道草がアイデアを広げるって訳。分かっ手」。

    いかがでしたか、今回の『三木組奮闘記』。三木組のみんなユニークでしょ。
    お正月前のロングバージョン、お読みいただきありがとうございました。
    今年もあとわずか、みなさんよいお年をお迎えくださいね。

    続きを読む: 三木組奮闘記『世界一の研究者になるために』
  • 三木組奮闘記『駅 Part 2』

    課題『駅』、後半のプレゼンテーションが始まりました。「卒業制作を超える」の合い言葉が伝統になりつつある三木組、教室はすごい熱気に包まれています。みんなの緊張が僕にも伝わってきます。それでは『駅 Part 2』のはじまり、はじまり。

    光景色駅(こうけいしきえき)
    ある日の午後、「三木せんせ~い!」と、廊下で大声で叫ぶUさん。僕がトイレで用を足していたら、何度も何度も聞こえてくる叫び声。「おいおい、トイレぐらいゆっくり行かせてくれよ」。「あっ、いた!すみません」。「どうしました?」。「課題の考え方なんですが、JR阪和線の車窓から見える風景がとても綺麗なんです。京都や奈良とは違う、日常の暮らしと相まった自然の風景なんです」。「ええ」。「それを『光景色駅』という名で呼んで、車窓からの風景を通して、それぞれの駅の魅力を伝えていくキャンペーンにしたいのですが…」。「いいんじゃないですか」。「良かった!三木組のプレゼン、最高に緊張するんです。今日もドキドキしてたんです」。「大丈夫だよ。ところでこの沿線、Uさんの言うように京都のような雅さはないけれど、日本の暮らしの原風景とでも言うか『日々是好日』という言葉が似合う町が続きますよね」。「そうなんです。素朴で落ち着く町並みに思えます」。「普段の素敵な町には、一日一日を丁寧に暮らす人々の営みがあります。そんな視点で町を見つめると、きっと、風景の中から暮らしの声が聞こえてきますよ!」。「はい」。プレゼン当日、緊張がピークのUさん、こんな詩的なコンセプトからスタートします。

    駅と駅の間の車窓から広がる美しい景色。
    そしてそのとき、その場所で起っている出来事、光景。
    春に咲く桜の木々。
    初夏に咲く紫陽花の花、蛍の光。
    秋になれば真っ赤なもみじ。
    朝の清々しい匂いとジョギングする人の呼吸のリズム。
    昼の子ども達のはしゃぎ声と風の音。
    夕方になれば水面にオレンジの太陽の光が広がります。
    車窓から広がる世界は刻一刻と表情を変えあなたを楽しませます。
    景色と光景。ふたつが合わさったあなただけの素敵な駅を見つけに来て下さい。
    和歌山にはあなたの気に入る駅があるはず。

    万葉まほろば線
    Kさんのプレゼンテーションが始まりました。「JR西日本の奈良駅から高田駅までを結ぶ路線、桜井線の愛称を『万葉まほろば線』といいます。名前の謂れは、万葉集に多く詠まれた名所や旧跡が沿線に点在していることと、『まほろば』が奈良を想起させるという理由からだそうです。その路線のほとんどが利用者が少ない無人駅なんです。その無人駅の魅力をもっと多くの方に伝えたいと思い、それぞれの駅と万葉集の関わりを深く掘り下げてみました」。「すご~い。社会の先生みたい」。「私が選んだ無人駅は、1.京終(きょうばて)2.帯解(おびとけ)3.櫟本(いちのもと)4.長柄(ながら)5.柳本(やなぎもと)6.巻向(まきむく)7.三輪(みわ)8.香久山(かぐやま)9.畝傍(うねび)10.金橋(かなはし)の10駅です。タイポグラフィを意識したエディトリアルで文化や歴史を可視化させてみました」。プレゼンが終了してホッとしたKさん。「いかがだったでしょうか?」。「前回の、逆転カンパニーの教訓が生かされていて良かったと思いますよ」。「ありがとうございます。黒板に書いていただいたエディトリアルデザインの考え方やお見せいただいた資料の数々にハッとさせられました」。「今回のデザイン、漢字に注目したのが良かったですね。漢字は象形文字。意味をカタチにした文字だから、コミュニケーションが真っすぐ届く絵なんだよね。レイアウトもタテ組ヨコ組を柔軟に組み合わせ、意味に沿ってメリハリも付けられていて、内容をしっかり熟知した事がうかがえます。研究の成果が現れていますよ」。「嬉しいです」。

    paletode
    『駅』というテーマから、駅→旅→変化→色→メイクと5段活用で化粧品のブランディングを提案してきたT君。まずは、こんなコンセプトから語り始めていきます。

    一番素敵な 今日の自分へ

    「人生は旅である」という有名な言葉がある
    人生とは今日が繋がって出来ている
    この旅は何処へ向かっているのだろうか
    毎日変わる今日を繋げてみると、そんな事を思ってしまう
    人は毎日変わる
    変わって当たり前なのだ
    その日の天気やスケジュール、一緒にいる人や
    昨日観た映画にも影響を受け、変わる事だろう
    そう毎日、違う自分なのだ

    時に、人は色に例えられる
    あの人は赤だろうか、いや青かもしれない
    自分は何色だろうか
    毎日違う自分なのだから、色もまた毎日違う
    そして今までの旅路で育った最新の感性で選び出される
    今日の色が一番素敵である
    そう信じる事はなんて素晴らしい事だろうか
    自分に 気持ちに 素直に送る素敵な色の今日が繋がって
    きっと素敵な旅になる

    paletode~palette to today~は
    そんな素敵な今日の色へ向う旅の駅
    一番素敵な今日のために

    詩人になったのかと思うほどポエティックなT君にみんなキョトンとしています。その後、オリジナルのタイプフェイス、ファッショナブルなヴィジュアル、ストイックなパッケージへと繰り広げられる展開。三木組のみんな、今度は唖然としています。前回に続き、すごいボリュームのプレゼンです。授業が終わって「いかがでしたでしょうか?」。「すばらしかったよ。ただ、テーマと化粧品との関係性が希薄に感じました。コンセプトを強引に組み立て、自分のやりたい表現に持ち込もうとし過ぎていたかもしれないな」。「ええ」。「T君は、無意識かもしれないが作品化しようとするあまり、コミュニケーションを置き去りにしているところがあるかも…」。「コミュニケーションって、何なんでしょうか?」。「いい質問ですね。『かっこいい』の捉え方が単なる色やカタチだけではなく、明解な理念に裏打ちされて商品が作られているかどうかをみんなが見てるわけ。本当に『かっこいい』のと、『かっこうがいい』のとはずいぶん違って『かっこいい』は、多くの人に共感されることです。コミュニケーションが通じ合うデザインは、お客様との間に絆が芽生えていきます。それが買いたいという気持ちになっていくわけです」。「あの…。プレゼン前に妹にこのデザインを見せたのですが、『かっこいいと思うけど、私は買わない』って言われてしまいました」。『気づきに気づく』。三木組、三回生、前期の授業は、これでおしまい。三木組のみなさ~ん、お疲れさまでした。

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